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Bye bye my blue sky(銀誕)
2009-04-19 Sun 22:49
銀誕という名の新刊の抜粋ですが、スミマセン;;














空は透き通るように青かった。
抜け落ちるよう、と言い換えてもいい。
果てのない青さ。
じっと見上げていると、重力に逆らって宇宙へと引き込まれそうな不可思議な感覚。


小さな恐怖を覚え、足元のおぼつかない乳児のような頼りなさで、銀次がぺたりと芝生へと腰を下ろした。
「何だよ?」
隣から呆れたような声が掛かる。
「わかんない、腰が抜けたみたいになっちゃった」
「あん? 久しぶりの焼肉弁当だからって大げさなヤロウだな」
銀次は、見る見る真っ赤になった。
「ちょっ、蛮ちゃん、ちがうよっ! 別に俺はお弁当の匂いに腰抜かしてるわけじゃなくて、そりゃあ、気を失いそうにおなかはぺこぺこだけどもっ」
「だったら、さっさとメシにしようぜ。おら、寄越せ」
「あ、うん!」
芝生の上に寝転がっていた蛮が上体を起こし、隣に坐った銀次へと手を伸ばし、催促のようにハーフパンツから覗く膝小僧の上あたりを指先で突っつく。
「手つき、やらしい」
「うるせえ。ともかく弁当寄越せっての」
「はいはい」
銀次が弁当屋の袋から、ごそごそと蛮の分の弁当を取り出し、割り箸と一緒に手渡す。
蛮はそれを受け取ると、弁当の蓋を取り、パキと口で割り箸を割った。
いつ見てもこの様が男臭くてカッコ良いと思うのに、銀次が真似ようと頑張ってもどうしてもうまくいかない。ま、向き不向きの問題だわなと軽く蛮には流されるけど、銀次的には納得がいかないのだ。
(いつか、パキって、蛮ちゃんみたいにカッコよく出来るようになってやるんだ…!)
志高く、とはいえ両手で丁寧に箸を割って、同じく弁当の蓋を開ける。焼肉のたれの何とも言えない美味しそうな匂いに、思わず満面の笑顔になってしまう。
「わーい、おいしそう! いただきまーす!」
「おう、食え食え」
まだ温かい肉をほおばれば、銀次の顔からますます笑顔がこぼれる。
「うおおお、おいしい! ねえ蛮ちゃん、美味しいね!」
「あぁ」
答える蛮も、ついつられて笑顔になる。
まったく。食ってる時が一番幸せそうだな、こいつはとしみじみ思いながら。

ま。たまの贅沢。
今日の贅沢が明日の空腹を意味するかもしれないが、それでも、相棒の満面の笑顔が見られるのなら安いことだ。
明日は、明日の風が吹く。
また働いて、がっつり稼げばいいだけのこと。
貴重なのは、『今』、この時だ。
目前で銀次が笑っているという、今。
そんな自分の考えに、蛮が一人苦笑を漏らす。
ぞっこんじゃねえかよ、まったく。

内心で自身を揶揄する蛮をよそに、箸を忙しく動かし、ぱくぱくと肉をほおばりながら、銀次が不意に視線だけを空へと向けた。
「うーん」
「あ? どうした?」
「うん。空が青いなって思って」
「は?」
「落ちてくみたいに青いなって」
「…落ちてく? テメエがか?」
「うん。空見上げるとさ、落っこちていきそうな感じしない? 特に天気のいい青空の日はさ」
「吸い込まれそうってな表現ならわかるが、落ちるってのはあまり聞かねぇな。重力ってモンを完全に無視してやがる」
「重力ってりんごが木から落ちる話でしょ? こう頭の上に置いてさ」
「先に言っておくがよ、頭の上にりんごを置いて矢を射る話とは、また別だぜ?」
「あ、あれ? そうなの。そうだっけ? 別のお話だった?」
ボケられる前にと先手を打てば、どうやら銀次の頭の中では本気でごっちゃ混ぜになっているらしい。
「マジか、テメエ。リンゴ繋がりなだけじゃねえか」
「だって。似たようなお話だと、こんがらがっちゃうんだもん」
「どこが似てるんだ、どこが!」
「似てるじゃん、りんご!」
「それだけだろうが! リンゴなら白雪姫にだって出てくるっての」
「うーーん。そっか」
納得できたような出来ないような、微妙な面持ちで銀次が頷く。
そして、また空を見上げた。
箸が完全に止まっているのを見て、蛮が怪訝そうになる。銀次が、食欲より思考を優先させるのは、極めて稀だからだ。
「で?」
「んっ?」
「何の話よ」
「何のって?」
「別に、りんごの話がしてえわけじゃねえだろ?」
「あ、うん。そう、かな。そうかもしんない」
銀次らしくない曖昧な笑みと返答に、蛮の紫紺がますますいぶかしげになる。
それを察して、何がってわけじゃないんだけどと前置きして、やや困ったように銀次が言った。
「こういう空見上げてるとさ。なんだか不安になることがあるんだ」
「不安?」
「不安っていうか、時々こわいなって」
「落っこちそうでかよ?」
「うーん。例えるとそんな感じかな? 足元がしっかりしてないっていうか、俺、今、どこに立ってるのかな? 俺って、何だろ?って」
「あん?」
「あいでんてぃてぃの問題かな? 両親とか生まれた時のこととか、何も覚えてないからかな? 俺って本当は誰で、どこから来てどこに行くのか。ふと、最近そうゆうの考えるんだ」
「…哲学だな」
「そうなの?」
「ま、テメエが言うと、ガキのなぞなぞみてえだが」
「ええっ、何それ! ひどいなあ!」
からかうように言われて、銀次がもうっと頬を膨らませる。
だけども視線が空に戻れば、どこか遥か遠くを見るような切なげな眼差しになった。
まるで遠くの星にいる誰かを思って、懐かしんでいるような。
「でも、考えたことない? 特にさ、こんな風に空が青くて、どこまでも青くて。見上げてると、自分がもっと上の世界から落こっちてきたんじゃないかとか思えちゃうと」
「テメエは、不思議の国のアリスか」
返ってきた蛮の返事に、銀次がきょとんとする。それは何だか、妙に的を得ている気がした。
「じゃあ、蛮ちゃんはうさぎさん?」
「俺は、茶会になんぞ興味はねえ」
「あ、ハートのクイーンかな」
「何で俺様が女王よ」
「だって魔女だし。えらそうだし」
「あ? 説明になってねえ」
「うーん。じゃあさ」
「―いいじゃねえか」
「え…?」
不意に話の流れを止めるように、蛮が言い、銀次が視線を空から蛮へと向けた。
深い紫紺の瞳が、銀次の琥珀を捕らえる。
吸いこまれそうなのは、空よりも寧ろ。こちらの方。意識ではなく、甘く心が囚われる。
抱き取られるみたいに。
「別に、誰だっていいじゃねえか。どこから来ようが、どこに行こうが」
「蛮ちゃん?」
問い返す銀次に、不敵な笑みを浮かべて、自信たっぷりに蛮が応える。



「天野銀次」



「…えっ」
「天野銀次だろ。テメエは」
「あ、うん…!」
強く言いきられて、思わず強く頷きを返す。
「GetBackersのNo.2、天野銀次。これ以上、テメエにどんな肩書きが必要だ?」
「蛮ちゃん…」
力強い言葉に、銀次の瞳が一度大きく見瞠られ、それが微笑みながら細められる。
いつも、いつでも。
こんな風に、蛮の存在は、銀次の存在を確かなものにしてくれる。
足元には大地があって、自分は己の足でしっかりそこに立っているのだと、それを教えてくれる。
自分が誰なのかを、はっきりと付きつけてくれる。
だから、迷うなと。
「そっか。そっだね! 俺は、GetBackersのNo.1の美堂蛮の相棒の天野銀次! 俺を証明するものは、それだけで充分だね!」
言葉にして宣言すれば、それは胸の内で確かな光となって灯される。
蛮がいれば、迷うことなんてないのだ。
その隣にいつも、自分の場所は用意されている。
紫紺が穏やかに細められる。
「ああ、そうだ」
声音はやさしく、乱暴に肩を抱き寄せ、金の髪をくしゃくしゃとかき混ぜる掌は大きくてあったかくて。
胸がじーんとなって、ついつい涙ぐんでしまう。
「最強の称号だよね!!」
「…バーカ」
照れ隠しに頭をぽかりとやられて、銀次が笑う。



テメエは本当に単純バカだなと笑う蛮に、銀次が幸福げな笑みを返した。
逞しい腕に首をホールドされて、ふざけて笑って。
青空の下。
光の中。
二人は、ただ、ただ幸福だった。




どこで生まれ、育ち、どこから来てどこに行くのか。
そんなことを知らずとも、人は簡単に幸福になれる。
『過去』など、『昨日』へと過ぎ去ってしまった時間になど意味はない。
『今』があれば、『今日』が満ち足りていれば、それが繋がっていけば。



たとえ、セカイがどんな『明日』を向かえようと。
繋がりは途絶えない。
『明日』も、この手を離さなければいいだけのことなのだ――。












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