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DeepBlack11(サンプル)
2009-08-13 Thu 02:58
deepblack11-hyoushi-s.jpg
夏コミ発行/記憶喪失銀次のお話です。第11弾/92P









「ん? 何?」
 マンションの駐車場でスバルを降り、ふと蛮の視線に気付いて銀次が問う。
「いや。腹減ったんじゃねえかと思ってよ。朝からろくに食ってねえからな」
 病院で軽くパン程度は胃に入れたものの、確かに朝からほとんど食事らしい食事は取っていない。
「んー、そういやそうかな。うん、ほんとだ、おなか減った!」
「言われるまで気づかねえぐらいなら、ま、大丈夫か」
「えー、大丈夫じゃないよ! 蛮ちゃんがそんなこと聞くから、なんか意識したら急に減ってきた! ねえ、おなか減ったおなか減った!」
 子供のように腹を押さえて訴える銀次に、蛮がやれやれ聞くんじゃなかったと嘆息する。
 もっとも、食欲は銀次の元気のバロメーターのようなものだ。食べられるうちは大丈夫だ。そう感じて安堵する。
「ガキか、テメエは」
「だってさあ」
「うるせえ、近所迷惑だっての」
「はうっ」
 廊下でもがっと口を塞がれ、銀次が慌てて首を縮める。やばいっと辺りをきょろきょろするけれど、苦情を訴える声はどの部屋からも上がらなかった。
 そのことに、ほっと胸を撫で下ろしつつ部屋の鍵を開ける。カチャ…というドアの開く音が、なんだかやけに嬉しかった。
 扉が開くなり笑顔になって、靴を脱ぎ散らかせ、ばたばたと真っ暗な部屋に突進していく銀次に苦笑を漏らしながら、蛮がパチンと壁のスイッチを入れ、部屋の灯りをつける。銀次は、わーいとばかり、勢い良くベッドへとダイブした。
「うわーい、ただいま、ハム吉くん!」
 枕元のハムスターのぬいぐるみ(引越し祝いにと姉がくれたのだ)に抱きつき、ごろんごろんとベッドに転がる。
 出て行った時と、何ひとつ変わらない二人の部屋。天井も壁もカーテンも何もかも。ぬいぐるみを抱きしめて、銀次が目を細める。
 蛮がこの部屋を借りてから、新婚さんのように毎日が楽しかった。
 いろんなものを二人で買い揃えて、掃除をして、洗濯をして。食事を一緒に作って、食べて、一緒に眠る。ごく当たり前のことが、楽しくて嬉しくて仕方がなかった。
 ぬいぐるみを抱いたまま、セミダブルのベッドに突っ伏して銀次が考える。
 そんな平和な日常が、ずっと続いていくものだと思っていた、まだあの頃は。蛮と家族と一緒のしあわせな暮らしが、ずっと続くのだと信じて疑いさえしなかった。
「…」
 ベッドに飛び込んだままの格好で黙ってしまった銀次を察して、傍に来た蛮の手がくしゃりと金髪を掻き回す。
「銀次」
 呼ばれて、琥珀の瞳が蛮を振り返った。
「ただいま、蛮ちゃん」
「おう?」
「ん、なんでもない。ただいまって言えるのって、なんか幸せだなって」
「…そうだな」
 目を細めてくれる蛮を見つめ返して、銀次が笑む。

 知らなかったら、ずっとあのままだっただろうか。
 ずっと平和は続いたのだろうか。
 もしも、知らないままだったら。
 セカイが終わっても、その終わりが来たことも知らず。
 平和な思いのまま、セカイと一緒に消えたんだろうか。
 自分という存在も。

「…蛮ちゃん、俺」
 言いかけた言葉を遮るように、ベッドに腰かけた蛮が包むような笑みで銀次に訊ねる。
「何が食いてえ?」
「へ?」
 唐突な問いに、同じ体勢のまま蛮を見上げ、銀次がきょとんとなった。と同時に、銀次のおなかがぐーっと鳴り、本人より先に意志表示をした腹にくくっと蛮が笑いを漏らす。
「うわ、なんかいきなり、おなか鳴ったっ」
 赤面しつつ、こらと銀次が自分の腹を叱りつける。だけども、空腹に勝てるものはなくて。
「だーから。食いてえモンは何だっての」
「あー、えっと、下のコンビニでお弁当とか買う?」
「別にそんでもいいがよ。冷凍してる材料で作れる程度のモンなら作ってやってもいいぜ?」
「へっ?」
 蛮の言葉に素っ頓狂な声を出し、銀次が上体を捻って持ち上げた。驚いてまんまるになる琥珀の瞳を、蛮が何だ文句があるかとばかり睨みつける。わかりやすい照れ隠し。
「ってことは! それもしかして、蛮ちゃんがごはん作ってくれるってこと!? それを俺がリクエストしちゃっていいってこと!?」
「んな大袈裟なモンじゃねえが。まあ、簡単なものならな」
「ほんとっ!?」
 嬉しさを全身で現す銀次に、やれやれ現金なこったと蛮が両肩を持ち上げ、苦笑を漏らす。
 だけど、こういう奴だからこそ。甘やかし甲斐もある。ついつい、甘い顔を見せてやりたくなってしまうのだ。
「おうよ」
「やったあ! じゃあ、じゃあね、オムライス!」
「あぁ、オムライスだ? 鶏肉は冷凍があるが卵がねえぞ」
「がーん!」
「しゃあねえ。チキンライスで我慢しろ」
「ええぇ、やだっ!」
「あぁ?」
「俺は、蛮ちゃんのふわっふわ卵のオムライスが大好きなのっ!」
「知るか。無ぇもんは無え」
「そんなあ…! あ、そうか、蛮ちゃん!」
「おう?」
「お買い物っ!」
「あ?」
「お買い物行こうよ! 駅前のスーパーならまだ開いてるし! ね、行こう行こう!」
「今からかよ。つか、ちょ、待てこらテメエ!」
「ついでに、ビールとか、おつまみとかも買っちゃおう!」
 言うが早いか蛮の手を引き、銀次が笑顔のまま玄関に向かう。
 確かに手持ちの金はあったが。しかし、まさか買い物とは。考えてもみなかった蛮が、つい顰めっ面になる。
 面倒臭えと反論してはみるものの、だが、結局満面の笑顔の銀次には勝てず。
 蛮は大げさに溜息を落とすと、仕方なく、へいへいとそれに応じた。






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