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Silent moonlin night (蛮誕)
2009-12-23 Wed 01:19




銀次が『創生の王』となり、このセカイをバビロンの掌中より奪還してから、そろそろ1年が経とうとしている。
初期化を逃れ、銀次が望むままに、少しだけ以前に比べてやさしくなった『セカイ』と、すべてが元通りのように見えた無限城。
それでも一度ベルトラインの侵食を受けた下層階・ロウアータウンは、時折、予期せぬ異変に見舞われた。
それは、主にリアルとバーチャルとの空間の錠び、歪みとして現れる。

が、無限城の少年王・マクベスにより頻繁に行われる修復作業のおかげで、今のところ、各所に大きな問題は見受けられなかった。
とはいえ、まだまだ安全の域には達しない。
下層階の住民を護るため、元VOLTSのメンバーも定期的な見回りに駆り出される事が増えた。
今や、城外で生活する者が多いメンバーの、それは、さながら同窓会のようでもあったけれど。
〈もしかすると、それも銀次の望みの一部だったのかもしれない〉



「士度。そっちはどうだい?」
「ああ、異常なしだ。花月」
「やぁ、みんな」
「マクベス…! 来栖さんも」
ロウアータウン・イーストブロックの一角に久しぶりに顔を揃えた、かつてVOLTS四天王と呼ばれた4人。
「王自ら視察か。ご苦労だな、マクベス」
「こういう事は、やはり自分の目で確認しないとね、士度」
「感心だな」
「でも確かにその通りかもしれないね。君のプログラムがいくら完璧とはいえ」
「そうだね、花月。やっぱり、モニター越しでは見えないものもあるから」
「銀次みたいな口調になってきたな、マクベス」
「茶化さないでよ、柾さん」
両肩を持ち上げ、背後に来た長身をマクベスが振り返る。
「ところで、銀次さんは?」
「そういえば、蛇ヤロウとは珍しく別行動だったな」
「美堂くんは、確か卑弥呼さんたちと行動していた筈ですが」
「銀次なら、笑師たちのグループと一緒じゃなかったのか?」
「さっき笑師に会ったけど、銀次さんはどこか行くところがあるからって、途中で別れたらしいよ」
「…そう、ですか」


銀次が単独行動?
それはかなり珍しいことだ。
4人が同時に首を捻る。
もっとも、昔なら珍しくもなかった。
今の今まで皆の中心にいたかと思えば、ふっと姿を消して一人になりに行く。
そんな姿をよく見かけた。


思い出し、花月がはっと顔を上げ、誰よりも先に皆から身を返した。
「僕に心当たりがありますから…! 見てきます」
「いや待て、俺が行く。花月…!」
「士度は、そろそろ戻った方がいいんじゃないのかい? 見回りも終わったことだし、後のことは僕らにまかせてマドカさんのもとに」
振り返って意味深な微笑を浮かべる花月に、来栖がにやりとする。
「そうだな、お前の帰りを待ち詫びているんじゃないのか?」
「柾、お前こそ…!」
「やれやれ。相変わらず銀次さんのこととなると君たちは…。わかった、3人ともご苦労様。銀次さんの事は僕が」
「おいおい、抜け掛けしようったってそうは行かないぞ、マクベス」
「だいたい、王がこんなところでいつまでも油売ってていいのか。朔羅が探しているかもしれないぜ」
「僕を誰だと思ってるの、士度。僕が無限城内のどこにいるかなんて、指令室からは」
「とにかく、僕が行くよ…!」
「ちょ、おい…っ! 花月!!」
「待て、花月!」
皆の非難の声を背に聞きながら、花月が華麗に疾走を開始する。我知らずと、きれいな口許からは微笑がこぼれた。


昔もこんな風だった。
自分たち4人は『彼』のために集い、彼を護るために戦い、常に真っ直な彼の心を想い、憧憬を抱いた。
表立って奪い合いをするほど子供ではなかったけれど、可能ならば、彼の一番近くに立ちたい。一人のものにしたい。独占欲は常にそれぞれの胸の内にあった。
隣に共に立つことは無理でも、せめて少しでも近くに心を寄り添わせたい。
だが、それは同時に、『雷帝を護る』という決意と信念の固い結束をも生んだ。


そして。それぞれに大切な人が出来た今も皆の中で変わらないのだ。
そのことを嬉しく想う。



ロウアータウン・サウスブロックのスラム街に足を踏みいれ、やはり、と花月が思う。
中央の広場にあった瓦礫の塔。
ベルトラインの侵食を受けた際に失われてしまった(崩壊したのではなく、消滅したらしい)と聞いていたが。
復活している。
これも銀次の『望み』だったのだろうか。
だとしたら、あまりにささやかな。
いや。だが、彼にとって此処はきっと特別な場所なのだろう。
あの頃の、唯一のお気に入りの場所だった。だから。



黒曜石の双眸が、その先端を見上げる。
星明かりの下、広場に長い影を落としている塔の上の彼の姿を。
そよぐ夜風の中で、月を仰ぐ人影。
澄んだ琥珀。金色の髪が風に揺れる。
この人が、『無限城のディアブロ』と呼ばれ、恐れられていたなんて。
今も信じられない。


見つけたものの、近づくことは出来ず、廃ビルのひび割れた壁と壁の隙間に身を隠すようにして、ただじっと見つめる。以前と同じように。


彼が、此処に来る意味は知っていた。
一人になりたいのだ。一人で、ただ、風を感じていたい。
それがよくわかったから。


彼の横顔は、穏やかであったけれど、どこか淋しそうだった。
それでも、孤独を自ら選んでいる風だった。
淋しいけれど、誰も寄せ付けない厳しさ。
自らが選ぶ、『たった一人』以外は、誰もいらない。
静かながらも、そんな苛烈な厳しさがあったのだ、彼には。
だから、邪魔が出来なかった。
こうやって足元から、ただ見上げているばかりだった。憧憬の念を抱いて、ただじっと。



「…相変わらず。高嶺の花ってヤツか?」



背後から近づいてきた影が、苦笑まじりにそう言った。花月の気配がぴりっと尖る。
「…来栖さん。つけてきたんですか?」
「おいおい、人聞きの悪いことを言うな」
「とはいえ、抜けがけはずるいよ、花月」
「…マクベス。抜けがけも何も」
ただ此処に立って、見つめているだけだ。あの頃と同じに。


塔の先に立って月を仰ぐ彼は、昔と変わらず、どこか人を寄せつけないものがある。
その横顔は、昔と違ってひどく穏やかであるというのに。


結局、自分たちにはその『資格』がなかった。あの隣に立つ資格が。
一人分立てる僅かなスペース。
そこに昇り、彼とともに立つ、『王』たる資格が。


「マクベスはどうだい?」
「まさか。いくら頑張っても、まだまだだよ。銀次さんには届かない」
「届かないからこそ、いいのかもしれねぇな」
「聞き捨てならないぞ、士度。お前にはもう相手がいるだろう」
「…そういう話じゃない。だったら柾、お前の方こそ」
「そうだよ、ヘヴンさんがいるくせに」
「マクベス。お前にだって朔羅が」
言い合う3人に、花月が微笑を浮かべながら華奢な肩を竦ませる。
「皆さん、お似合いですよ」
「花月には十兵衛と、それに俊樹までいるくせに」
「そうだ、二人も」
「って、ちょっと待ってください…! どうして僕だけ相手が男なんですか…!」
「それは…愚問だろう」
「愚問だね」
「…柾さん、マクベスも」
苦笑して顔を見合わせる二人を腕を組んでちらりと睨んで、花月がまったくもうと溜息をつく。
士度だけが、神妙な顔つきになって言った。
「俺とって…マドカ以上に大切なものはねえ。だが、違うんだ。銀次は、あいつは…!」
そのマドカを護るため、一度は裏切ろうとした自分に、銀次はそれでも許して命を差し出そうとしてくれた。
思い出し、士度がぐっと両の拳を握り締める。
彼はそうなのだ、いつだって。
誰かを護るため、自分を譲ろうとする。惜しげもなく。
「…あぁ、そうだな」
同じく思い当たって、来栖が、マクベスが、視線を下げる。
「うん、わかるよ、士度。だから、銀次さんは、銀次さんだけは特別なんだ。僕にとって、僕らにとって」
「ええ、そうです。僕たちにとってあの人は、そんな何ものにも代えられない唯一無二の特別な存在なんです」




そして、
永遠に手の届かない、
高嶺の花。







「よぅ、カミナリ小僧」





だが。
見守る4人の沈黙を破るように、広場に入ってきた男が軽い口調で銀次を呼んだ。
4人の視線が、一斉に剣呑となる。ぴりっと辺りの大気が緊迫して張りつめた。


この男が。
孤高を護る雷帝を、皆の『高嶺の花』を、手荒く毟り取って行った。
誰のものにもなるはずのない彼を、たった一人のものにしてしまった。


憎むべき男。
美堂、蛮。


だが、そんな花月らの視線に気付きながらも、まったく意に介さないように、美堂蛮は瓦礫の上の銀次だけを瞳に映し、紫紺を細めた。
「なーにやってんだ? こんなとこで一人でよ」
「蛮ちゃん」
背後からかけられた声に、名を呼んで銀次が振り返り、見下ろす。
ぴんと張りつめていた空気が一気に緩んだ。破顔する。甘えるような視線が蛮を見つめ、琥珀が蕩けるように細められた。
それを見つめ返して、蛮が笑む。
「いくら、バカと煙は高えところが好きだって言ってもよ」
「何それ。ひっどいなあ、もう」
「事実だろうが」
「って、あれっ? もしかして探してくれてた? こんなとこまで蛮ちゃんが来るなんて」
「べーつに。たまたまだ」
「ふぅん、そうなんだ。へへっ」
「何だよ、気持ち悪ぃ」
「なんでもないよーだ。でも、たまたまでも、来てくれて嬉しい!」
「…そりゃどーも」
普段と何ら変わらないやりとり。
言葉だけではなく、視線が交わることでかわされる無音の会話。
にも関わらず、どこかほっとしたような表情が見てとれるのは、花月たちと同じく、銀次もまた、ここで過去の時間に囚われていたからかもしれない。


だけど。
あの時のように、今はもう孤独ではなくて、一人ではなくて。
こうして、一つに溶け合うくらいに近しく、心を通わせるものがいる。
欲しかった、唯一。
渇望したものをやっと手にいれた至福は、今も続いているのだ。
邂逅した日からずっと。


「此処さ」
「あぁ?」
「無限城の中で一番、夜空が広くて、お月様がきれいに見えるんだよね」
「へえ」
「昔、よく一人でここにきて、こんな風に見てた」
「月をか?」
「うん」
月見が趣味たぁ知らなかったぜと揶揄する蛮に、銀次がくすくすと笑んで、また月を仰ぐ。
そして、邪魔をする気はねえと言わんばかりに、瓦礫の影に凭れるようにして煙草を取り出した蛮に気付くと、そのさりげないやさしさに琥珀を緩ませた。
覗き込むようにして、下を見る。
「ねえ、来る?」
「あ?」
煙草を銜え、蛮が視線を上げる。
「蛮ちゃん」
呼ぶ声がさらに甘さを増した。
「来て」
「あん?」
「蛮ちゃん、上がってきてよ」



「…!」
強請るように告げられた言葉に、花月がはっと息を飲む。
なぜ、そういとも簡単に。
士度がぐっと拳を握り締めたのがわかった。
来栖が苦く口許を歪め、マクベスがフイと視線を逸らす。



そんな当惑を知ってか知らずか。
蛮がいいのかと尋ね返すこともなく、ズボンのポケットに両手を突っ込んだまま、ひょいと身軽に瓦礫を登り、あっさりと銀次の隣に並んだ。


誰も立つことができなかった、『あの場所』へ。




「ね、きれいでしょ」
「あぁ…いい月だな」
「うん!」
蛮の同意に、銀次が嬉しげに強く頷く。そして、隣に立つ蛮の端正な横顔を見つめた。
「ん? 何だよ」
「えっ、ううん、なんでもない。ちょっといろいろ思い出してたから、昔のこと」
「”カミナリ小僧”だった頃のことか?」
「うん、まあ」
「何だよ、何笑ってやがる」
「その呼び方、久しぶりだなと思って」
「今も小僧には変わりねえがな」
「えっ、そんなことないよ! ちょっとぐらい成長してるよ、俺!」
「さあ、どうだかな」
煙草を銜えたまま、蛮が口許でにやりと笑む。
銀次が、むむっと口を尖らせた。子供のような無邪気なしぐさ。



昔はあんな顔はしなかった。見たことがなかった。
そして、最近見る彼の顔はいつも笑顔だ。はじけるような笑顔ばかりだ。
それも勿論過去に見たことはなかったが、そして、笑顔が向けられるのは喜ばしいことであるのだが。


数年前にあの上で見た憂い顔は、今はもう見られない。
苦しげな顔も、かなしそうな表情も、ましてや涙など。
今はもう、たった一人にしか見せない。
あの腕の中でしか、彼は泣かない。



――妬ましい。
ギリ…ッと唇を噛みしめる。




ふと視線に気付いて、紫紺がちらりとこちらに視線を流した。
いや、今更だろう。気配に敏感な男だ。とうに気付いていた筈だ。
先程から、こうやって、まるで指を銜えるようにして、皆で二人を見上げていることに。
じりじりとしながら敵意を孕んでキッと睨み上げれば、余裕の笑みが蛮の口許に浮かぶ。
まったく、腹立たしいったらない。
「蛮ちゃん?」
どったの?と蛮の視線を追ってこちらに向こうとした琥珀を、甘い低音が、憎らしい唇が彼の名を呼び、それを留まらせた。
「ぎーんじ」
「うん? 何、蛮ちゃん?」
接近されて、銀次が嬉しそうに答える。琥珀はもう蛮の紫紺に釘付けだ。こちらを見ようともしない。
身体も精神も、すべてを目前の男へと傾向させる。
その腰を引き寄せ、蛮が囁きを漏らすように耳元へと唇を寄せた。
「うぁ、何いきなり、くすぐったいよ」
「こーら、逃げてんじゃねえ」
「だって、いきなりだからびっくりするじゃん」
「いきなりじゃなきゃ、いいのか?」
「へっ?」
きょとんと丸くなる瞳を見つめ、紫紺が細められる。腰は捕われたまま、もう一方の手で顎を掬われた。
さすがに意味を解して、銀次の目許がほのかに赤らむ。
「……嫌かよ?」
答えの代わりに、銀次の両腕が絡むように蛮の首へと回された。
琥珀の双眸は、ただじっと魅入られるように紫紺の瞳だけを見つめている。
あんなに見つめて話さなくても、いつも一緒にいるのだからいいだろうに、と思うのに。
「そんなわけ、ないじゃん…」
銀次が蛮の肩口に額を寄せる。囁きは、蜜のように甘い。
寧ろ自ら望んだことを蛮に悟られてしまった?というような、恥じらいの表情で銀次がそっと瞳を伏せる。
蛮の指が再び、銀次の顎を攫った。唇が、しっとりと塞がれる。
「……ん」



「…っ、行きましょう」
盗み見の趣味は無い。
吐き捨てるように言って、花月が先頭をきって踵を返した。
が、そこいらの廃ビルを片っ端から瓦礫に変えてしまいたい破壊衝動をかろうじて押さえ、怒る背を向けたまま、立ち止まる。
そして、もう一度、瓦礫の塔の上を見上げた。美しい黒髪が風に流れる。



2年前は、熱心に見つめていたら気付いてくれた。
少し淋しそうではあるが、微笑をくれた。
だのに。
今、こちらを向いているのは、嫌味たっぷりの勝ち誇った紫紺だけだ。
挑むように、睨めつけ返す。いっそ殺意を露わにしようか。
そうすれば、いくら銀次でも――。
思い、髪飾りの鈴にすらりと長い指を伸ばしかけたところで、ふいに、蛮の腕の中で銀次がはっと顔を上げた。



「あれっ? カヅッちゃん?」



「…っ」
「士度も柾も、わわっ、マクベスまで!」
元気な声に呼ばれて、皆で一斉にそれを見上げる。大きく、くっきりと丸みを帯びた月を背景に、はじけるような笑顔がこちらに向けられていた。
月明かりに照らされた金の髪が、ちりばめた星のように光を放つ。
一瞬にして、緊張が解ける。月の色さえ違って見えた。
「みんな揃ってどうしたの? あっ、パトロールはもう終わったんだよね!」
「えぇ、まあ」
「異常なしだ、銀次」
「そっか。良かったね、マクベス!」
「あ、はい…! 銀次さんたちも長時間お疲れ様でした」
「あぁ、まったく。これでタダ働きなんざ、割に合わないったらねえな」
「んあっ、もうっ蛮ちゃん! そんなこと言っちゃダメだよっ」
友達なんだからね!と蛮をたしなめて、また皆に向き直る。
「んじゃあさ、これからみんなでHonkyTonkに行って、ごはん食べよー! 今日はおごってくれるって、波児さんが言ってたから!」
満面の笑みで銀次が言う。
「って、テメエが無理矢理おごりにさせたんじゃねえかよ」
「うわっ、蛮ちゃん! しーっ、しーっ!」
慌てて蛮の口を塞ぎに行く銀次の慌てように、花月の眉間の深皺も瞬く間に薄れ、口許には笑みさえ浮かんだ。美麗な横顔に穏やかさが戻る。
まったく。
この人にはかなわない。
思えば、他の3人も同じなのだろう、揃って苦笑を浮かべつつ、強張っていた表情を崩す。顔を見合わせた。




そう、かなわないのは、今も昔も『天野銀次』、ただ一人だけだ。
決して、『美堂蛮』になどではないのだ。
月の光の下。そんな風に、それぞれの胸に言い聞かせながら。






幻惑の月明かり。
だけど、銀次を惑わせるものは、今は。













END

















全然蛮ちゃん祝われてないんですけど!(笑)
私から蛮ちゃんへのプレゼント!的な(笑)
蛮ちゃん一人が気持ち良いお話でした。
カヅッちゃん、ごめんね。
そして、蛮ちゃん!
今年も、お誕生日と銀次ひとりじめ、おめでとう!!

ちなみにこのお話は、DeepBlack12にこの2年前のお話が載ってます。
高嶺の花な雷帝のお話です。
…と、こっそり宣伝。












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