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久保時新刊『閉ジテ逝クセカイ』
2010-03-19 Fri 23:05



『閉ジテ逝クセカイ。』
コピー本・表紙込み20P・200円
(WILD ADAPTER 06後のお話です)











 闇の中で声なき声が呻いて啼いて喘ぎを漏らす。
 まるで、暗い海の底で藻掻くように、手を伸べる。


――何処へ?


 助けを求めるかのように。


――誰に?


 その手に差し伸べられた救いの手が、必ずしも自分にとって救いであるかなんて。
 何の保証もないのに。




「……ぁ、あぁ……ッ……! 久保ちゃ……!」




 それでも。
 名を呼んで叫んで、差し伸べられた冷たい手に安堵しながら、高みを登る。
 身体中の傷が裂けて痛んで血を流すのに、骨が軋んで悲鳴を上げるのに。
 それでも、止められない。
 突き上げられて、また新しい血を流す。

 人を殺して、何人も殺して、生き延びて。
 まだ生きている証が欲しいのだ。渇望している。
 どこまで欲が深いのだろう。人というものは。

〈もっとも久保田が欲しい『生きている証拠』は、自分が、ではなく、時任が生きているという証だけだろうけど〉


 血の色に染まる瞼の裏に正気を押し込め、ただ溺れた。
 光もない昏い深海の底にも、意外にも快楽はあったのだ。




正気…か。

ん?

なあ。正気って何だろ?

…俺に聞くかな?

俺。もう、とっくに正気じゃねえのかもしんねえな…。



――数多くの屍の上で立ち上がり、踏み歩き、まだ息をしていること自体――



記憶を失う前から、もしかしたら、そうなのかもしんね。

…なら、同じかな?

久保ちゃん、記憶喪失になったことねぇだろ?

…同じようなもんよ? 俺も、お前と。

どこがだよ。

あんま、覚えてないからね。昔のこととか何も。

…何もって、それ。どんくらい昔の話だよ。ガキの頃?

んー。お前と出逢う前。

はあ? それって割と最近じゃん。

お前と出逢う前の記憶とか、ほとんど無いから。

…ふーん…。

お前と出逢う前って、俺、どうやって毎日息してたかなぁ、みたいな?






「…なんだ、それ」
 痛む身体で寝返りを打って、時任が苦笑する。
 甘い気怠さの中のピロートーク。
 睡魔はもうそこまで降りてきているのに、すとんと眠りには落ちていけず、こうしてぼんやりと2人、取り立ててどうということはない会話を続けている。
「なんか、それじゃあ告ってるみてぇだぞ。久保ちゃん」
 何とも表現のしようのない、呆れたようなげんなりしたような顔で、枕に顎をのせて時任が言う。
 隣でセッタの煙をくゆらせ、久保田が一つ笑みを返した。






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