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春の怪(2010銀誕)
2010-04-19 Mon 21:53





今年も滞りなく誕生日を迎えられた。
滞りなく、というのは何だか妙な表現だけれど。
無限城の中にいた頃は、自分にそんなものがあることさえ、意識することさえなかったのだから。
毎年、あぁ今日がその日なんだと実感でき、誰かにそれを祝ってもらえる。
だから、滞りなくその日を迎えられることは、やっぱり何より幸せなことなのだ。

たとえ、最愛の人が、人の姿をしていなくても。








HonkyTonkで盛大に誕生会を開いて貰い、プレゼントとご馳走でお腹も心も満腹状態。
すっかり満足した銀次は、ほくほくとてんとう虫のサイドシートを倒し、さて寝ようかと身体を伸ばした。
が。
程なくして、運転席の黒猫の機嫌の悪さに気付く。
猫が苦虫を噛み潰したら本当にこんな顔になるのかどうかは知らないが、今の蛮を表現するものとしてはまさしくそれが相応しい。銀次がやれやれと肩を落とした。
「もうっ、蛮ちゃんったら。いくらレナちゃんの作ってくれた特製お魚ケーキがトンデモナクすごい味だったからって、そんなにいつまでもふて腐れてなくても。蛮ちゃんのためにわざわざ作ってくれたんだしさあ」
勿論、銀次には別に波児のお手製イチゴたっぷり生クリームケーキが用意されていた。
にも関わらず、猫の蛮にはお頭付き小骨付きお魚ケーキ。
確かに、文句の一つでも言いたい気持ちはよくわかるが。
「つうか、そもそもケーキなんぞハナから食わねえ俺様に、なんでわざわざんなモンを作る必要があるのか、まずそこから理解できねえ」
「まあまあそう言わずに。レナちゃんなりに気をつかってくれたんだからさ」
宥める銀次の言葉にも、チッと舌打ちをして、そっぽを向く。
拗ねた黒猫の背を見つめ、銀次が独り言のようにしみじみ漏らした。
「でもさあ…。蛮ちゃんも、なんでこんなタイミングなんだろねー?」
「あぁ!? 何がだよ」
魔女の力が増幅していくのを調整・セーブするため、デモンズ・アームを克服した後の蛮は、ある一定の周期を辿って突然こんな姿になる。〈まるで罰ゲームのようですね…とは花月談〉
数日を経て元の姿に戻りはするのだが、その間猫化したかと思えば、力の解放が必要な際にはなんと魔獣化することもある。
本人の意志も関わってのことだが、今のところ、その周期はほぼ2ヶ月くらいだ。
つまり。
「12月の時は、ちょうど蛮ちゃんのお誕生日あたりからクリスマスにかけて、だったし。2月はちょうどバレンタインの前くらいからでしょ。んで今回は、俺のお誕生日前日からで……」
ことごとくイベントごとと重なっているのは、いったいどういう偶然なのか。はたまた誰かの陰謀なのか。
別に蛮の意志ではないだろうが、こうも続くと、さすがに疑いたくなってくる。
(まさかおばあちゃんの策略…ってことは、ないよね。まさか)
思いながら、銀次が我知らずと、はあ…と溜息をつく。
途端に、黒猫の髭がぴくりとなった。片眼の金色がギロリとサイドシートの銀次を睨む。
「表出ろ」
「え…? あの、蛮ちゃん…?」
「オモテ出ろっつってるだろうが!」
いきなり恐ろしい剣幕で怒鳴りつけられ、銀次が額に汗をかきながら引き攣った笑みを浮かべる。
「って、俺、何かした…かな?」
「うるせえ、とっとと言われた通りにしろ!」
「んあああぁっ、ごめんなさいごめんなさい!俺、全っ然そんなつもりじゃないよ!そりゃ、蛮ちゃんが普通の姿でいてくれたら嬉しいのは嬉しいけど!どんな姿でも蛮ちゃんは蛮ちゃんだし!!それに別に愚痴とかそういうのじゃなくて、ですね、ただ事実を…いや、だからそれも嫌味とかじゃなくてですね!なんで毎回こんなタイミングなんだろーなーーって単純にギモンにですね、思っただけでですね…!」
「つべこべうるせえ!いいから外に出ろってんだよ!!」
「ううっ…」
頭ごなしに怒鳴られ、仕方なく助手席のドアを開き、銀次がスバルを降りて外へと出る。合図されると運転席に回り、そちらのドアも徐に開いた。黒猫がひらりと地に降り立つ。
「うう、蛮ちゃん…。あんまり痛くしないでね。俺、ほら一応お誕生日だし」
「…あぁ?」
しょんぼりと項垂れて言われ、猫の蛮が片目を眇めた。
「つうか、なんで頭押さえて蹲ってやがる?」
「え?だって殴るんでしょ。オモテ出ろって」
「……はぁ?」
言われように、撫で肩をさらに落として、蛮がはあと溜息をつき、呆れたように返す。
「違うっての」
「…え?」
「ったく、テメエはそうだからよ…」
「え、何、なにがそう?」
「うるせえ、こっちの話だっての!」
「痛ぁっ!やっぱ殴るんじゃんかっ!にゃんこのお手々は爪が痛いのにもう~っ!」
跳躍と同時にバシッと銀次の頭を叩いた前足の先を、着地とともにぺろりと舐めて、黒猫がフンと鼻を鳴らした。
どこかほくそ笑んでいるようにも見える猫の顔。
「さあて」
「ん?」
ちろりと紫の瞳が銀次を見る。
それが不思議な深い彩を帯びたと思った途端。
どろん!とでも効果音が付きそうな唐突さと早さで、猫だった蛮の姿が変貌し、巨大化していく。
「どわあああっ、蛮ちゃん!いきなり魔獣になっちゃってどーすんの!」
見る見る銀次の背を追い越し、公園の街灯さえ越して魔獣になった蛮の姿は、まるで巨大な黒い狼か狐のようだ。
頭だけでも銀次の身の丈ほどある大きな獣の額には、力の全解放を封じる魔女の血の紋章が浮き出している。
瞳は黒猫の時と変わらず、片方が金で片方が紫紺。
だが、魔獣とはいえ、その姿はあくまで神々しく、気品さえ漂わせていた。
美麗で高貴、圧倒的な存在感。
これは、魔女の血族の中でもウィッチ・クイーンの直系のものだけが成す、魔獣体系なのだそうだ。
そして、翼があるわけでもないのに、自在に飛行が可能。風を巻き起こすようにして空を駆ることが出来る。
「おら、銀次。背中に乗りやがれ」
「へっ?」
「ぼさっとしてんじゃねえ。とっとと乗れっての!」
「う、うん?」
さっぱり事態を飲み込めない銀次が、首を捻りつつも、低くなってくれた獣の背によっこらしょとよじ登る。
「おっしゃ、んじゃ行くぜ!」
「って蛮ちゃん! 行くってどこへ…!?」
「行き先なんざ、決めてねえ」
答えるなり、大きな身体が風を舞い上げ、上昇を開始した。
「えぇええ!? う、お、おおおぁああああっ」
「しっかり掴まってろや」
「って、それ先言って蛮ちゃん!!既に落ちかけてるしね、俺!!」
「へいへい」
ふさふさの黒い毛並みの下から、唸るような低音が直接銀次の腹に響いてくる。
そのたっぷりとした黒い毛並みをしっかりと手の中に握り込んで、銀次が遥か下に地上を見下ろした。
月が近くなる。
街の明かりが星屑のようだ。
風を切って、夜の都会の空を突き進む。
「うわぁ、すごいや…! 街の明かりがあんなにちっさく見えるよ!」
「寒くねえか?」
「うん!蛮ちゃんの毛並みふさふさであったかいし!今夜は雪もなくて、あったかいしね!」
「四月半ば過ぎの会話じゃねえがな」
「だって、2、3日前は雪降ってたもんね。桜の花の上に雪積もってたし! 今年は本当に異常だよねえ」
「ああ、確かにな。けどまあ、いいじゃねえか。散った桜の枝に白い雪の華が咲くってのも悪くねえ」
たまにはそういうのも粋で良い。
蛮が云えば、銀次も即座に笑顔で同意した。
「ん!そうだね、すっごい幻想的できれいだったしね!」
「あぁ」
「…それに」
「ぁあ?」
「あ、えと。ううん、なんでもない」
「んだよ、言いかけてやめるな。気になるだろうが」
「えー、だって恥ずかしいし」
「テメエが恥ずかしいのは、いつものこったろ?」
「うわ!何それ、ひっどいなあ」
「言わねえと落っことすぞ」
「んあ!? ちょ、やめて蛮ちゃん!わかった、言います言います言うからっ!」
急降下しようとする蛮を慌てて制し、銀次が苦笑しながら、内緒ごとのように魔獣の耳にこそりと呟く。

「好きな人と見る景色は何だって、特別素敵にきれいに見えちゃうよねーって話…」

「……」
「黙ることないじゃん!」
「…よくもまあ。そこまでこっぱずかしい事を平気で言えるもんだと、しみじみ感心してたんだっての」
「あ!蛮ちゃんってば照れてる!俺わかるもんね!蛮ちゃん、今ものすごく照れてるでしょー!」
「うっるせえ!」
「だって今…」
「黙って見てろ、バカ銀次」
「え…」

言葉と同時に、琥珀が大きく見開かれた。

これも蛮の『魔力』なのか。
目を合わせずに相手に夢を見せる、まさしく『邪眼』。


空を駆け抜け、雲を抜けた先に広がる異空間。
漆黒の夜の空に無数の桜。
はらはらと舞い散る桜吹雪。
そして、混じり合うように、天から降り落ちる真白い粉雪。

あまりに美しく幻想的な光景に、感嘆の溜息以外は声も出ない。
ひたすらに息を呑み、魅入る。





そっか、これが見せたかったんだね。
これを俺に。





「ありがと、蛮ちゃん……。最高に素敵な誕生日プレゼントだよ…!」
至福の笑みを浮かべ、銀次が黒い毛並みにぎゅっと抱きつき、嬉し涙を隠すように顔を埋めた。


好きな人と見る風景は――。
こんなにも美しい。
それも、大好きな人が、自分のために見せてくれた美しい『夢』なら、尚の事―――。








END







銀ちゃんお誕生日おめでとう!!!!!
またしても「Burning!」番外編で、蛮ちゃん黒猫で、しかも魔獣化までしててごめんなさい!
でも楽しいんだもんコレvvv



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