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Deep~(銀次・記憶喪失バージョン)
2006-04-16 Sun 21:17


どうやら、今日もターゲットの男はアパートに帰ってくる気配はなさそうだった。
女や友人のところを点々とでもしているのか、一旦消息を絶った後、足取りさえ掴めない。


まさか、何か厄介事に巻き込まれたか? 
その上で、既にサイアクの事態に墜ちた後だとか?
いや、男の素性から推し量るに、それは充分に起こり得る。


だとしたら――。
いっそ好都合だ。
依頼は、その時点でキャンセルとなる。
とっととこの街を離れる、格好の理由が出来るものを。




思い、苦笑する。
吸いかけのマルボロの先で長くなった灰を、運転席の窓から風に散らす。
そして、ふと。
寝静まる住宅街の、たった一つの窓を見上げる。
淡いブルーのカーテンの引かれた、明かりの消えた窓。




…よく眠れているか?
悪い夢など、見てはいないか?




思うことは、そんなことばかりで。
考える度に、抉られるように胸が痛むのに。
想わずにはいられない。





助手席の窓から少々身を傾けるようにして、道を隔てた向こうの、その家の二階を見上げる。

――ふいに。

それに気がついたかのように、蛮のポケットで携帯が鳴った。
蛮が、着信の文字に瞳を見開き、やや惑った後、それに応じる。
無言で取った電話に、相手の方が先に声を発した。



『…もしもし』
「ぁあ」
『ごめん。寝てた?』
「――いや」
『そう。…なら、よかった』
「こんな時間に、何の用だ」
『あ…! うん。別に用ってわけじゃないんだけど。…なんだか、眠れなくて』
「それで?」
『う、うん。それで、もし起きてるんだったら、少し話がしたいなぁって』
「俺は、別に話すことなんざねぇよ。とっとと布団に入って寝ろ。目つぶってりゃ、そのうち寝られんだろ。じゃあな」
『あ!! 待って、切らないで…! ねえ、あの、"奪還屋さん"…!』

いやというほど聞き慣れた声の、まったく聞き慣れない呼び名に、蛮が思わず顔を顰め、言葉を詰まらせる。

『仕事中、邪魔してるって、わかってるんだけど! でも、あの、俺、どうしても、もう一度、話したくて…!』


言葉と同時に、ブルーのカーテンが揺れた。
その窓に、夜目にも鮮やかな金色が覗く。
蛮の灰色の右目が、それを捉えた。
視力のほとんどを失い、さらに色彩の無い世界しか映さなくなったその瞳でさえ、彼の金色だけは見える気がした。
たぶん、瞳の琥珀色も、きっとわかる。


『ねえ、そこに行っていい?』

電話の向こうでくぐもる、縋るような銀次の声に、蛮の胸と、力を失った右腕が疼くように傷んだ。

「駄目だ」
『どうして?』
「家の者が心配する」
『そんな事。だって、別に、遠くに出掛けるわけじゃないし』
「それでも、テメエの"家族"は、かなりな心配性揃いだろうが。わざわざ、余計な心配かけんじゃねえ」
『…だから、それは―。この前話した通り、俺がずっと、十年以上も行方不明になってたから…』
「ふらりと突然家に帰ってきたのが、確か半年前――つってたな」
『うん…』





その半年間。
俺は、テメエを捜して捜して、キチガイみてぇになってたぜ――?




『十年もの間、どこでどうしてたか…。どうしても思い出せないんだけれど』
「そっか…」
『でも、どうしてかな。ねえ、奪還屋さん』
「…ん?」
『奪還屋さんに出会ってから、なんか俺、変なんだ。ねえ、あの…。もしかして、どこかで前に、俺と会ったこととかある…?』
「ハ…! さあな。仮にあったとしても、いい女ならまだしもヤロウの顔なんざ、いちいち覚えてなんざねぇよ」
『でも…! なんだか、とても…。とても、懐かしい気がして』
「懐かしい?」
『うん。なんだか、懐かしさで、胸が苦しいくらい、いっぱいになるんだ。ねえ、これって。…どうしてなんだろう』



「――――銀次…」



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