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父の日?SS
2007-06-19 Tue 15:53


陽光の差す、木々の下で手を伸ばす。
実体としてはまだ定着は薄いが、自分はなぜかまだ此処に存在している。

光の満ちた森の中に、ひっそりと佇むデルシュロス。
ベルトラインの闇に深く沈んでいた城は、今、緑の中にある。


崩れようとしていたこのセカイを救った『創生の王』は、すべてを元通りにと願ったと同時に、少しだけ以前よりも、より良くやさしいセカイを望んだ。
つまりこの城は、そんな想いが生んだ1つの結果なのだろう。


そよぐ風に瞳を閉じ、やっと得る事が出来たひどく穏やかな時の流れに身を置き、彼のやさしさを想う。




「こんにちはー!」



突然、木立ちの向こうから掛けられた声に、はっと顔を上げる。
見れば、森の中の木漏れ日の下。
眩しい金色の髪をきらきらさせて、今しがた脳裏の思い描いた少年が、明るい笑顔をこちらに向けていた。
「やぁ…」
微笑み返せば、子犬のように嬉しそうにぱたぱたと駆け寄ってきて、目前で大きな瞳で見上げてくる。
無邪気というか、純真というか。
これが"あの"息子の相棒なのかと思うと、どうにも不思議な気がしてならない。

いったいどうやって、懐柔したのか。
我が子に問い正したい気にさえなる。

「すみません、ええっと」
「あぁ」
「あの、お父さん」
はにかむように呼ばれて、少し驚いた。
だが、彼に呼ばれるのには、好ましい呼称だ。
「あ! "蛮ちゃんの"ってつけるべきですよね。俺、慣れ慣れしいっていうか」
「いや。君の好きに呼んでくれて構わない」
「え、ホントにっ?」
「あぁ、悪い気はしないし、むしろ歓迎する」
告げて、その両肩に手を置くなり、木立ちの向こうから、途端に剣呑とした気が威嚇のように押し寄せてきた。
思わず、苦笑が漏れる。

…やれやれ。

気性の激しさと、独占欲の強さ。
しかも、とてつもなく気位が高い。
まったく、誰に似たのやら。
ふいに脳裏を過った母の姿に、殊更にやれやれとなる。

密かに漏らした息に気付いて、彼が背後を振り返り、同じく困ったように肩を竦めた。
眉尻を下げ、それでもくすりと笑む。

「一緒に途中まで来たんですけど。着くなり、此処で待ってるからお前だけ行って来いって」
「相変わらずだな」
「本当にもうー蛮ちゃんってば。意地っぱりなんだから」
「苦労かけるな、君にも」
「えっ、俺!? いえ、俺の方がいつもたくさん蛮ちゃんに苦労かけちゃってるんで! それに蛮ちゃん、あぁ見えて、実はすんごくやさしいんですよ!」
言って、えへへと嬉しそうに笑う。
途端にまた、"余計なこと抜かしてやがんじゃねえ!"と怒号の気が、木立ちの向こうから放たれた。
懲りないやつだ。
「…あ。なんか怒ってるみたい」
「放っておけばいい」
肩越しに森の方を振り返って、ややひきつり笑いを浮かべる彼に微笑みかけ、内心で低く笑いを漏らす。

我が息子ながら。
困ったものだ。
この少年のことになると。

二人の事は、ずっと波児にまかせてきたが。
今になって、それを少々羨ましくも思う。
この二人の相手をしていれば、日々退屈など無縁だろう。
毎日彼らの他愛ない話に耳を傾け、相槌をうって笑いかけ、叱咤激励し、美味いコーヒーを淹れてやる。
さぞや楽しい時間だろう。

「あ、そうだ! 肝心なこと忘れてた!」
"蛮ちゃんにまた叱られちゃうとこだった~"と言いながら、思い出したようにジャケットのポケットをもそもそと探り、彼が何やら取り出す。
「…煙草?」
「一応、"父の日"のプレゼントのつもりです。って言っても、当の蛮ちゃんはあんなで、しかも俺たち相変わらずお金なくて。一箱しか買えなかったんですケド」
にっこりと差し出された煙草の箱に、思わず瞠目した。

昔、波児と組んでいた頃に、好んで吸っていた銘柄。
酒と一緒で、くせになるほどは吸わなかったが。

「――いや。ありがとう。煙草なんて久しぶりだ。…嬉しいよ」
「えへへ、よかったっv」
しみじみと返した言葉に、少し照れたように鼻の下を指でこすって、彼がさも嬉しそうににこっとする。
そして、やおら振り返ると、大声で叫んだ。
「蛮ちゃーーん! お父さん、嬉しいって!!!」
その声に答えたのは今度は『気』でなく、はっきりとした怒鳴り声だった。
「うるせえ、聞こえてるっ!!」
「あ。聞こえてるんならさぁ、蛮ちゃんもこっち来…」
「渡したんならもういいだろうが! さっさと戻って来い!!」
「えー」
さも不満そうな声に、有無を言わさない呼び声が返る。
「銀次!」
「…はーい」
もう蛮ちゃんってばー…と小さく口の中でぶつぶつ言いながらも、その言葉に逆らう気はないらしく、こちらに向き直ってまたにこりとする。
「じゃあ、えっと。また来ますね!」
「あぁ、今度はぜひ君ひとりで来て、ゆっくりしていくといい」
そんな誘いに彼が答えるよりも早く、「誰が一人で行かせるかよ、エロオヤジ!!」と忌ま忌ましげな答えが返った。

まったく、何て息子だ。
いくら何でもエロオヤジは無いだろう。
どこまでも、口の減らんやつだ。

それでも込み上げてくるのは、怒りではなく、笑いだ。
何とも判り易い。

じゃあと笑顔で手を振る彼を見送り、それを迎える先程までとはうって変わった穏やかな気に、我知らずと瞳が細まる。
駆け寄る彼を抱きとめるような、優しげな気配。
微笑ましい。

いつか意地を解いて、この城を彼とともに訪れる日も来るだろう。
それものんびりと待つのもまた、良いものだ。



そんなことを考えながら仰いだ空の下では2羽の小鳥が仲睦まじく飛び、空の色は俄にバーチャルとは信じ難いほど、澄み渡り、どこまでも青かった。



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