スポンサーサイト
-------- -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
別窓 | スポンサー広告 |
DeepBlack6 一部抜粋
2007-10-29 Mon 23:54




だからお人好しだってんだよ、テメエは。
いくらテメエが許せても、
それでいいと言い張っても。
世界がテメエを責めるなら。
そんな"世界"を、俺が許しておけるわけがねえ。

俺が壊す。
それだけだ。

テメエのいねえ世界も未来も、俺にゃ用はねえんだよ。





「え? 何?」
「――」
「ごめん。クラクションの音で聞こえなかった。何て言ったの、蛮?」
「…別に」
「別に、って」
「何もねえ」
「でも」
「…」
「あ、ちょっと待ってよ、蛮…!」
夜の交差点を横切る背中を追いかけて、卑弥呼は慌てて足を早めた。
縦横無尽に行き交う人たちの中で、その背中は、一度見失えばもう見えなくなってしまいそうで。
二度と会えなくなってしまいそうで、卑弥呼の心を逸らせる。
まるで、そう。
"天野銀次"みたいに。
心で落として、同じ場所に湧いた苦い想いを振り切るみたいに、卑弥呼はヒールの踵で思いきりアスファルトを蹴って駆け出した。
そして、疲労のせいか、やや猫背に見える項垂れた後ろ姿を懸命に追いかける。

そういえば。
かつて、同じような光景を何度か見かけた。
新宿の人込みの中。先を行く蛮と、その後ろを追いかけて小走りになる人影。
とても立ち止まりそうにない歩調の足が、それでも懸命に名を呼ばれれば、人込みの中であるにも関わらず立ち止まる。
そして、追いついてきた頭をぽかりと一つ軽く殴って、乱暴に肩を引き寄せ、紫紺の瞳をやさしげに細めた。
行きつけの喫茶店を出た帰り、卑弥呼が偶然見かけた夕暮れの光景。
見た途端。どうしてだかわからないけれど、夕日の滲む色みたいに胸が灼けた。
街のすべてが、突然色彩を無くしてモノクロに見えた。
だのに、楽しげに笑い合う二人のその空間だけが、やけに鮮やかに浮き出されて。
気が付けば、逃げるように踵を返していた。

今も、街はあの時と同じ色。
けれど、心臓から流れ出す血のように、空では赤が滲んでいる。毒々しい嫌な色だ。
「ちょっと待ちなさい、ってば! 蛮!」
速度を上げて、赤信号になったのを無視して渡り切ったところで、卑弥呼が目前に見えた腕を掴んだ。痩せ細った右腕の骨の感触に、胸の奥がひやりとする。
「…」
やっと立ち止まった蛮の、見下ろしてきた青灰色の瞳は虚ろ。視力のほとんどを失い、よく見えていないせいなのかもしれないが。
「何だ」
抑揚のない声。感情のない瞳。
すげない言葉よりも、今はそれがかなしい。
落ちそうになる気持ちを踏みとどまらせ、卑弥呼は努めていつも通りの口調で言った。
「あぁ、そうだ。これ、お弁当作ったんだけどよかったら食べない? って、ええっと! 別にあんたのためにわざわざ作ったんじゃなくて、自分の夕食を作り過ぎて余っちゃったから、お弁当箱に詰めただけなんだけど!」
慌てて言い繕う、いつも通りの素直じゃない言葉にも、茶化すような横槍は入らない。
それどころか、差し出した紙袋に視線さえ合わない。
まるで、そこには何もないみたいに。
手下げの紙袋も、卑弥呼の手も。
「…」
「と、とにかくさ、ちょっとは食べなさいよ。あんた、ずっと何も食べてないんでしょ? そんなじゃ、アイツが見つかる前にあんたが倒れちゃうわよ、ほらっ」
アイツ、という言葉に、微かに視線が動く。
力無く、それでも奥の方では狂気を潜ませているような、色の違う左右の眼差しが卑弥呼を捉えた。
「構うな」
「――蛮…」
「俺に構うな」
そのまま、フイと背を向けられ、卑弥呼が瞳を見開いたまま、愕然となる。
紙袋を差し出した手は、振り払うことさえされなかった。
いっそ憤るなり、怒鳴りつけるなりしてくれた方がまだましだったのに。
拒絶の背中に、卑弥呼が叫ぶ。
「蛮…っ!」




(DeepBlack6/ジョーカーは微笑む)

スポンサーサイト
別窓 | 蛮銀SS | コメント:0 |
<<さらに原稿中 | ヒトリゴト | 寝た?>>
この記事のコメント
コメントの投稿
 

管理者だけに閲覧
 

| ヒトリゴト |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。