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「DeepBlack9」(一部抜粋)/蛮銀
2008-12-24 Wed 09:49
冬コミ発行の「DeepBlack9」の冒頭部分です。

















平日の午後。
常連客が去って、店にはいつもと同じ顔ぶれの男が3人。
コーヒーを飲みながら、思い思いの静かな時間をゆったりと過ごす。


波児さんは、相変わらずカウンターの中で難しい顔で新聞を読み、隣では蛮ちゃんが珍しく読書。
ちらりと盗み見てはみるけれど、どうやらドイツ語らしく、何が書いてあるのやら俺にはさっぱり。
仕方がないので、カウンターの奥に置かれたつけっぱなしの小型テレビをぼんやりと眺める。
映り、やや悪し。
だけど、波児さんは新しいのに買い換える気はないらしい。(どうせ俺たちが見るだけだもんね)
時折歪む画面の中では、ドラマの1シーンが映し出されてた。
内容は、お昼のドラマにしてはややヘビィ。
(愛憎劇という点では、もっとヘビィなのもあるらしいケド)

戦地に赴く兵士が、故郷に残した愛する人や子を想って泣いている。
死にたくない。
殺されたくない。
殺したくない。
明日、銃を向ける相手にも、きっと愛する人はいるだろうに。
その人が死んだら、嘆き悲しむ人がいるだろうに。
なのに、わかっていて。わかっているのに。
俺は殺すんだ。
そして、同じような思いの相手に殺されるんだ。

なんて理不尽。
こんな不幸ってあるだろうか。

誰も戦いたくはなくて、殺されたくも殺したくもなくて。
愛する人のために、自分のために、生き残りたいのに。
自分のその望みをかなえるために、相手の望みを断ち切るのだ。

何たる矛盾。何たる不実。
愛しい人の写真を胸に抱きしめ、むせび泣く男の姿に、ついつい、じわ…ともらい泣きの涙で画面が滲む。


『…阿呆』
隣から呆れたような声がして、はっとなる。
な、何、蛮ちゃん。
『昼ドラ見て泣いてんじゃねえよ、男のくせに』
お、男とか関係ないじゃん。それに、だってさ。可哀想じゃんか、こんなの。
『志願して戦地に赴いたんだろうが。いっそ本望と思えっての』
うわ、蛮ちゃん、冷たい。…っていうか、なんでドラマの内容知ってんの。本読んでるのに。
『自然と耳に入ってくるだろうがよ。しかも、至って有りがちなストーリーだしな』
ふぅん…。
でも。なんでさ。戦争ってあるんだろ?
『あぁ?』
だってさ、戦争をやるって決めた人にも、やっぱりこの人と同じように大事な人がきっといるよね。恋人とか家族とか。
『そりゃ、まあな』
だったらさ。自分の敵になる人にだって、やっぱり自分と同じように、そういう人がいるかもしれないじゃない。
そう考えたらさ。ばかばかしいじゃん。
みんながみんな、そんなかなしい想いばっかして戦争して、いったい誰が得すんの?
『そりゃあ、戦地になんぞ赴くことのねえ、身の安全を確保されたお偉いさんたちだろうぜ?』
うーん。
でもさ、でもさ。その人たちだって、絶対安全とはいえないじゃんか。得することも勿論あるけど、無傷ってわけじゃないでしょ。
お金の面とか、じ、人件費?的なことでっていうか。俺、そういうのよくわかんないけど。
本音では、誰も戦争なんかしたくないって思ってるんじゃないかな。
お互いそういう気持ちがわかり合えたらさ、戦いってなくなるんじゃないかなーって。

『そいつは甘ぇな』

…波児さん?
え? 何? 俺、なんかおかしい?
『そういうのをわからなくしちまうのが、戦争ってヤツだ』
え…。
『人の尊厳なんざ、戦場では無えも同然。土台そんなことを言ってたら、まず生き残れねえ。一瞬の躊躇が、次の瞬間、自分の死を意味する。そういう世界だ』
…それはそうだけど。

じゃあ。
じゃあさ。
そういう甘さが戦争を成り立たなくするんなら、それを理由にやめちゃえばいいんだ。
戦う理由なんて、どうせ誰もよくわかんないんだもん。
わかんないなら、それをやめる理由にすればいいじゃん。
わかんないこと、無理してやる必要無いじゃん。

わかってるよ、そんな簡単じゃないって。
でもさ。
戦わない勇気も必要っていうか、やんない、っていうのは、逆にやるよりずっと難しいことだってあるけど、でも俺はさ、そういうのをちゃんとしないで、ただただ意味もわからず殺し合うっていうのは――。
『へいへい、わかったわかった』
って、もう、蛮ちゃん、聞いてるっ? 
俺、今、真剣に語ってるんですけどっ!
『あぁ、聞いてる、聞いてる』
ちょっと、大事なとこなんだからさ。ちゃんと聞いてよ、も~~っ!
『なら。こういうのはどうだ。銀次』
…へ? 何、波児さん? 急にこわい顔しちゃって。



『世界を一つの意志で統一する』


一つの意志で?

『そう。意志統一の行われた世界じゃあ、戦争は起こらねえ。人は違いがあるから、互いに主張する。だが、誰もが同じ考え、主張を以って統治すれば、戦いを生むほどの意識のズレは生じねえ。人は対話をもって、平和を維持できる』
……へえ。そうなんだ。
『どうだ? そういうシステムがもし世の中を管理するようになったら、世界は変わるぜ?』
波児さんの目が、サングラスの向こうで不思議な色をして細められる。
あれ?
目の錯覚かな。今、波児さんの目の中に何か十字架みたいのが見えた、ような。



【―――そう。それこそが。『クオリア計画』】
ふいに、俺の頭の片隅で囁く声が聞こえた。
この声は、誰だろう?



【そのシステムこそが世界を素晴らしき未来に導く。さあ。あなたもこれに賛同して。この計画に―――】




…なんか、難しいね。でも。

俺は。
俺は違うと思う。


【………!】


だって、それじゃあ意味がない。

俺は、そう思うんだ。
それも全部、自分の意志じゃないとだめだって。
誰かに統一され、与えられたものじゃなく、自分で選び取ったものじゃなきゃ意味がない。

だって、それが生きてるってことじゃないのかな。



蛮ちゃんが、隣でフ…と笑った。
何?俺、間違ってる?
考え方、甘い?
そんなの無理だって思ってる?
たずねれば。
ひどくやさしい紫紺が俺を見つめて。
『テメエはそれでいいんだよ』と、ポンと掌を俺の頭に置いてくれた。
『そんなテメエだからこそ。俺はこうして、隣にいられる。この先も、ずっと――』
そう笑って言ってくれた。





俺は、甘いのかもしれない。
本当は、何もわかってないだけかもしれない。





だけど、やっぱり今でもそう思ってる。
そう思ってるよ。蛮ちゃん―――。









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